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「いわゆる社員皆歯科健診」──厚労省×経産省の意図を先読みし、企業が“次の健康経営”で競争力を高める時代へ

  • 執筆者の写真: 佳葉子 吉満
    佳葉子 吉満
  • 7 時間前
  • 読了時間: 23分
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「社員の歯の健康」は、これまで企業経営の中心的なテーマとして語られることはほとんどありませんでした。しかし近年、国の政策や企業の健康経営の潮流、そして欧州の制度事例などを背景に、「社員皆歯科健診」という新たな発想が、企業の競争力を高める戦略施策として注目され始めています。


日本では、会社員約6,000万人のうち、予防目的で年1回以上歯科健診に通っているのは34%程度という試算があります。就学期に義務付けられていた学校歯科健診が、大学進学・就職を機に途切れてしまい、その後の受診習慣が定着していないことが大きな要因です。一方、ドイツをはじめとする欧州の一部では、公的保険制度に年2回の歯科検診を組み込み、国民全体で予防歯科が文化として根付いている例もあります。つまり、制度と企業文化の両面から支える仕組みがあれば、受診率は飛躍的に高められるということです。


さらに日本国内では、厚生労働省と経済産業省の双方が、就労世代に対する歯科健診の推進を強化する方向性を示しています。厚労省はモデル事業を通じて企業歯科健診の普及を進め、経産省は「健康経営優良法人」制度により、企業の健康投資を戦略的に評価する仕組みを整備しています。現時点で口腔保健が評価軸に正式に組み込まれているわけではありませんが、制度設計上の余地や業界団体からの要望もあり、将来的に評価対象となる可能性が指摘されています。これは医療費の抑制、生産性の維持・向上、ウェルビーイングの観点からも極めて合理的な流れです。


加えて、マイナビの調査によると、若年層が企業選びで重視するポイントとして「福利厚生」が約40〜50%と高い割合を占めています。つまり、社員皆歯科健診は「福利厚生 × 健康経営 × 採用力強化」を同時に実現できる戦略的な施策となり得ます。


本稿では、こうした背景を踏まえ、「社員皆歯科健診」を日本型の健康経営の中に位置づけ、企業と地域社会がともに価値を創造する包括的な予防歯科モデルの可能性を探っていきます。



 第1章 いま、なぜ「社員皆歯科健診」なのか


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1-1. 社員皆歯科健診とは何か──単なる健診ではない「企業戦略」


「社員皆歯科健診」という言葉は、私たちが提唱している造語です。


一見すると「社員全員に歯科健診を受けさせる仕組み」と思われるかもしれませんが、実際の狙いはもっと広いところにあります。


企業にとって、社員の健康は「コスト」ではなく「投資」に変わりつつあります。これは、経済産業省が健康経営を“企業価値向上の戦略”と位置付けていることにも明確に表れています(経済産業省 健康経営推進)。


この流れの中で、歯科健診は次の3つの役割を担うことができます。


  • ① 健康維持・医療費抑制の起点となる

    歯周病など口腔疾患は、糖尿病や心筋梗塞、認知症など多くの全身疾患と密接に関連しており、早期発見・予防が医療費の削減にも直結します。


  • ② 生産性向上と離職防止の要因になる

    歯の痛みや口腔トラブルが集中力・睡眠・栄養摂取に影響し、プレゼンティーズム(出勤しているが生産性が落ちている状態)を引き起こします。こうした課題は、従業員本人だけでなく企業全体の損失にもつながります。


  • ③ 福利厚生・採用力・企業ブランドを高める

    マイナビの調査によると、企業選びの重要ポイントとして「福利厚生」が上位に入っています(マイナビ 2025年卒 就職意識調査)。歯科健診を戦略的な福利厚生として打ち出すことは、若年層への訴求にも効果的です。


こうした役割を複合的に担う「社員皆歯科健診」は、単なる医療施策ではなく、企業の人材戦略・経営戦略に組み込むべきテーマといえるのです。



1-2. 「健康経営」の次なる焦点としての“口腔”


経産省が進める健康経営は、従業員の健康増進を通じて企業価値を高めることを目的としています。一方、厚労省は「国民皆歯科健診」を掲げ、年齢や職域を超えて、予防歯科の受診を広げる方向を打ち出しました(厚生労働省 国民皆歯科健診について)。


この両者の動きは、まさに「企業歯科健診」を政策的に後押しする構図を生み出しています。つまり、健康経営の評価軸と歯科健診の政策が重なり始めた今こそ、企業が動き出す絶好のタイミングだと言えるのです。



1-3. 企業がこの流れを“先取り”する意義


いま企業が「社員皆歯科健診」を戦略的に導入することには、単なるCSRや福利厚生を超えた意味があります。


  1. 政策的な追い風(厚労省・経産省)があるため、制度整備や補助金の活用がしやすい

  2. 他社に先駆けて取り組むことで、「健康経営×予防歯科」の分野で差別化が可能

  3. 社員の医療費・生産性・満足度の三位一体の改善を図れる


つまり、「社員皆歯科健診」は、企業にとって “制度に追随する”のではなく、“制度を活かして差別化する”戦略 なのです。



 第2章 社会背景──「健診空白期」と企業が見逃してきたリスク


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2-1. 会社員6,000万人のうち「年1回以上歯科受診」は34%──健診空白期という構造的課題


日本では、幼稚園から高校までは「学校保健安全法」に基づき、毎年一回の健康診断が義務づけられており、歯科健診もその一環として行われています。


ところが、大学進学や就職を機にこの仕組みは途切れます。つまり、成人になると、歯科健診は“努力義務”に変わり、制度的な強制力がなくなるのです。


この結果、企業に勤める約6,000万人のうち、「予防目的で年1回以上歯科に通っている人」は、厚生労働省などの公表データをもとにした独自の試算で 34%程度にとどまっています。


つまり、日本の会社員の 約3人に2人は、歯科健診を受けていない状況にあるということです。


さらに重要なのは、この層の多くが 30〜50代という、生産年齢人口の中核層であるという点です。


歯周病の罹患率は30代から急激に上昇し、40代後半でピークを迎えるとされています(厚生労働省 e-ヘルスネット)。


つまり、最も働き盛りの年代が、制度的にも文化的にも歯科健診から切り離されているという、構造的な「健診空白期」が存在しているのです。


この空白期を放置することは、企業にとっても重大なリスクです。


歯科健診の未受診は、単なる「虫歯や歯周病の悪化」という個人の問題にとどまらず、医療費・労働生産性・採用力など、企業の経営指標に直結する課題を内包しています。



2-2. 歯科医療費の「少なさ」の裏に潜む課題


日本の国民医療費(2021年度)は44兆2,000億円、そのうち歯科医療費は2兆9,000億円で、全体の約6.5% にすぎません(厚生労働省「令和3年度 国民医療費の概況」)。


この数字だけを見ると、「歯科は医療費に占める割合が少ない」と感じるかもしれません。しかし、これは「問題が少ない」ことを意味するのではなく、むしろ受診率が低いために潜在的な疾患が放置されている可能性を示しています。


例えば、歯周病は自覚症状が乏しく、進行してから受診するケースが多い疾患です。


初期段階での治療や予防を怠ると、結果的にインプラントなど高額治療が必要になることも珍しくありません。1本あたり40万円前後かかることもあり、これが複数本となれば一人あたりの医療費負担は一気に跳ね上がります。


企業の健康保険組合などの医療費負担を考えると、この“放置コスト”は決して小さくありません。


しかも、歯科疾患は他の疾患と複合的に進行するため、結果的に糖尿病や心疾患などの医科領域での医療費を押し上げる要因にもなり得ます。歯科費用が少ないことは、裏を返せば 企業と社会が本来抑えられたはずのコストを見逃している ということなのです。



2-3. 歯周病と全身疾患──企業が見落としてきた「静かなリスク」


歯周病は「沈黙の病」と呼ばれます。


痛みがないまま静かに進行し、歯を支える骨が溶けて、最終的に歯を失ってしまうこともあります。そして、この歯周病は口腔内にとどまらず、全身の健康に深く影響することが近年の研究で次々と明らかになっています。


厚生労働省も「e-ヘルスネット」で、歯周病と心筋梗塞・脳梗塞、糖尿病、認知症、早産・低体重児出産、不妊症などとの関連性を明記しています(厚生労働省 e-ヘルスネット 歯周病と全身疾患)。


この中でも、企業にとって特に重要なポイントは次の3点です👇



① がんリスクとの関連

近年、歯周病と「がん」との関連性が注目されています。


国立がん研究センターの多目的コホート研究(JPHC Study)では、歯周病のある人はがんの発症・死亡リスクが有意に高いことが報告されています。特に歯の喪失本数が多い人ほど総がん死亡リスクが上昇し、肺がん・膵がんで強い関連が示されました(国立がん研究センター)。


また、ハーバード大学公衆衛生大学院の追跡研究でも、歯周病と膵がんのリスク上昇の関連が明らかになっています(Harvard School of Public Health)。


慢性的な歯周病による炎症や細菌毒素が全身を巡ることで、発がん環境を助長する可能性があると考えられています。



② 心筋梗塞・脳梗塞など循環器疾患のリスク上昇

歯周病菌が血管に侵入し、動脈硬化や血栓形成に関与することが知られています。


これは企業の医療費にも直結する疾患群であり、心疾患や脳血管疾患は重症化リスク・治療費負担ともに大きい領域です。



③ 認知症との関連

近年では、歯周病菌が脳に影響を及ぼし、アルツハイマー型認知症の進行に関与しているという報告も増えています。


就労世代の予防対策だけでなく、超高齢化社会を迎える企業の長期的な健康戦略において、今後ますます重要性が高まる領域です。



これらの疾患はいずれも医療費が高額であり、長期的な就業継続や労働生産性にも大きな影響を及ぼします。


つまり、歯周病の予防は全身疾患の予防であり、企業にとって医療費と生産性の両面に直結する投資テーマなのです。



2-4. 欧州では「年2回受診」が当たり前──文化と制度の差


一方、欧州では多くの国で「年2回の歯科健診・メンテナンス」が定着しています。


これは個人の意識だけでなく、企業や保険制度の仕組みによって支えられている文化です。


例えばドイツでは、健康保険によって年2回の定期健診とプロフェッショナルクリーニングが保障されており、受診すれば保険料の割引などのインセンティブが設定されています。


日本では、こうした制度的な後押しがなく、健診空白期を埋める取り組みもまだ十分ではありません。

だからこそ、企業がこの領域に踏み出すことが、予防文化の普及と社会全体の健康増進を支える重要な一歩になると考えています。



 第3章 なぜ企業が「社員皆歯科健診」に踏み出すべきなのか


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ここまで見てきたように、日本の会社員の約3人に2人は歯科健診を受けておらず、30〜50代という最も生産性の高い層が“健診空白期”に陥っています。そして、歯周病は糖尿病・心疾患・認知症など、企業の医療費と生産性に直結する疾患と深く関係しています。


では、企業が「社員皆歯科健診」に踏み出すと、どのような効果があるのでしょうか?


この章では、企業視点でのメリットを「医療費」「生産性」「人材戦略」の3つの観点から整理し、現場のイメージを交えながら具体的に見ていきます。



3-1. 医療費削減へのインパクト──“静かなコスト”に光を当てる


企業にとって医療費は、直接的な人件費と同じくらい、経営に影響を与える重要なコストです。


特に大企業では、健康保険組合を通じて医療費の一部を負担しており、従業員とその家族の医療費は企業経営に少なからず影響を及ぼします。


歯科健診の導入は、この医療費の「見えないコスト」に対して有効なアプローチとなり得ます。


例えば、歯周病の予防や早期治療によって、糖尿病や循環器疾患の発症・悪化を防ぐことができれば、医科領域での高額医療費を削減できる可能性があります。


実際、アメリカのある健康保険会社のデータでは、歯科健診を年2回受けている人は、受けていない人に比べて総医療費が年間1,000ドル以上少なかったという報告もあります(※日本と制度は異なりますが、予防歯科が全身の医療費を抑える傾向は共通しています)。


日本でも、歯科健診を企業単位で導入することで、「歯科費用が少ない=放置されている潜在疾患」に光を当て、医療費構造そのものを変えていく可能性があります。


特に企業の健保組合にとっては、従業員+家族全体の歯科受診を促すことが、長期的な医療費圧縮の鍵になり得ます。



3-2. 生産性向上──“歯”がパフォーマンスに与える影響は想像以上


歯科健診の導入効果は、医療費削減だけではありません。


実は、歯の健康は 集中力・栄養摂取・睡眠の質・ストレスレベル に直結しており、企業の生産性に大きく影響します。


例えば、歯の痛みや歯周病による違和感があると、仕事中の集中力が下がり、業務効率が落ちるというプレゼンティーズム(出勤しているが生産性が低い状態)が起こります。

ある米国の研究では、口腔疾患によるプレゼンティーズムは、1人あたり年間2〜3日の労働損失に相当するという報告もあります。


また、噛む力の低下や歯の喪失は、栄養摂取や全身の筋力低下、さらには認知機能の低下とも関連しており、これは特に中高年の従業員にとって深刻な問題となります。


企業歯科健診の導入によって、こうした問題を早期に発見・対応できれば、社員のQOL(生活の質)だけでなく、企業全体のパフォーマンス改善にも直結します。



📌 【事例イメージ】


たとえば、製造業の交代勤務の現場では、夜勤明けに歯科を受診するのは現実的に難しいという声が多くあります。


そのため、長年歯科健診を受けていない社員が珍しくなく、歯周病が重症化して抜歯に至るケースも見られます。


企業が定期健診と併せて職場内で歯科健診を行えば、こうした社員も受診の機会を得やすくなり、症状の悪化を防ぐことができます。



3-3. 採用力・企業ブランドの強化──「福利厚生×健康経営」の新潮流


もうひとつ、見逃されがちですが極めて重要なのが 採用・定着への影響 です。


マイナビの2025年卒就職意識調査では、企業選びの重要ポイントとして「福利厚生」が上位に挙げられており、約40〜50%の学生が重視しています(マイナビ調査)。


「社員皆歯科健診」を戦略的な福利厚生として導入することは、単なる健康施策ではなく、企業の魅力を高め、若年層へのアピールにつながる施策になり得ます。


特に、ホワイト企業認定や健康経営優良法人認定などを目指す企業にとっては、歯科健診の導入は評価項目になる可能性が高く、今後は導入していない企業との差が顕在化していくと考えられます。



3-4. 「義務化されてから」では遅い──制度変化の先取りが差を生む


厚労省は「国民皆歯科健診」の方針を明確に打ち出しており、今後は企業健診に歯科が組み込まれる可能性が高まっています。


経産省も健康経営の中で口腔保健を評価軸に含める可能性があり、厚労省×経産省の両輪で、企業に対する制度的な要請は強まっていくと考えられます。


つまり、企業にとって「いつか来る義務化に対応する」のではなく、制度変化を先取りして、自社の戦略に組み込むかどうかが差を生む時代になりつつあるのです。


先手を打って「社員皆歯科健診」に取り組む企業は、医療費削減・生産性向上・採用力強化の三拍子を揃え、政策的な追い風にも乗ることができます。


逆に、後手に回れば、認定・評価制度での見劣りや人材獲得競争で不利になる可能性も否定できません。



第4章 行政・制度の動き──厚労省と経産省の政策が重なり始めた今がチャンス


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企業が「社員皆歯科健診」に踏み出す上で、非常に大きな追い風となっているのが、行政の方針転換と制度的な支援の拡充です。


これまで歯科は、医科の健診と比べて政策上の優先順位が低く、企業の健康経営の中でも“盲点”とされてきました。しかし、ここ数年で状況は大きく変わりつつあります。


この章では、国と自治体の動きを整理し、企業にとっての制度的メリットを明らかにしていきます。



4-1. 厚労省──国民皆歯科健診で“歯科健診を当たり前に”


2022年、厚生労働省は「国民皆歯科健診」という方針を発表しました(厚生労働省 国民皆歯科健診について)。


これは、学校健診・職域健診・高齢者健診など、すべてのライフステージを通じて歯科健診を行うことを制度として目指すという、日本の医療政策としては画期的な方向転換です。


従来、企業が実施する定期健康診断には歯科が含まれておらず、企業に法的義務はありませんでした。


しかし、厚労省は就労世代への歯科健診の導入を進めるため、2018年からモデル事業を開始し、対象地域を拡大してきました。2022年度以降、神戸市を含む複数の都市がモデル事業地域に指定され、職域における歯科健診実施の制度化に向けた実証が進められています。


これは単なる「検討」ではなく、国の方向性として明確に打ち出されたものであり、今後は企業健診に歯科が組み込まれる可能性が極めて高いと考えられます。


企業にとっては、制度が義務化される前に自主的に取り組むことで、より柔軟な形で導入・運用を設計できるというメリットがあります。



4-2. 経産省──健康経営の中での「口腔保健」評価が始まる


一方、経済産業省は「健康経営」を企業戦略の一部として推進しています。


経産省は、従業員の健康管理を経営課題として捉え、戦略的に取り組む企業を「健康経営優良法人」として認定し、金融・取引面でも優遇される仕組みを整えています(経済産業省 健康経営推進)。


この「健康経営優良法人」認定制度の中に、口腔保健に関する取り組みを評価する項目が今後追加される可能性が高まっていると考えています。


背景には、歯周病と生活習慣病の関連性に対する理解が広がり、予防医療の重要性が経済界でも認識され始めたことがあります。


つまり、厚労省が「歯科健診の制度化」を進め、経産省が「企業の健康経営評価」に歯科領域を組み込んでいく可能性がある。


この 二つの政策が重なり始めた今こそ、企業が制度の波を先取りする絶好のタイミングだといえます。



4-3. 兵庫県──全国初の中小企業向け歯科健診補助制度


国の政策に先駆け、地方自治体も独自の制度を動かし始めています。


その代表例が 兵庫県の企業歯科健診受診支援制度 です。


兵庫県では2024年度より、中小企業と「健康づくりチャレンジ企業」を対象に、従業員および家族の自費歯科健診費用に対して 1人2,000円(上限10万円/事業所) の補助を行う制度をスタートしました。


これは、兵庫県の斎藤知事が口腔ケアへの関心を強く持っていることから実現したもので、全国的にも先進的な取り組みです。


この制度を活用すれば、中小企業でも比較的少ない負担で企業歯科健診を導入できます。


今後、他県でも同様の補助制度が広がる可能性があり、企業規模に関わらず「社員皆歯科健診」を実施しやすい環境が整いつつあります。



4-4. 国と自治体の政策の“重なり”を見逃すな

厚労省の「国民皆歯科健診」と経産省の「健康経営優良法人認定」、さらに自治体の補助制度──。


これらは一見バラバラに見えますが、方向性はすべて一致しています


つまり、国は「歯科健診を制度として広げ」、経産省は「企業の評価・インセンティブに組み込む(現時点ではまだ可能性の状態ではありますが)」、自治体は「現場での導入を後押しする」──この三層構造が形成されつつあるのです。


企業にとってこの重なりは大きなチャンスです。


制度化が本格化する前に動き出すことで、補助金や認定制度を活用しつつ、自社の戦略に沿った形で導入を進められます。


逆に、制度が整ってから慌てて対応するのでは、コストやオペレーション面で柔軟性を失う可能性があります。



第5章 「神戸モデル」──日本型・包括的予防歯科モデルの構築へ


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「社員皆歯科健診」を一過性のイベントではなく、企業・医療・地域が連携して継続的に健康を支える仕組みにしていくためには、単に健診を実施するだけでは不十分です。


重要なのは、普及啓発 → 健診 → セルフケア・ホームケア → 医療・介護連携 → データ蓄積、という一連の流れを 一体的にデザインすることです。


私たちは、その具体的なモデルとして、「神戸モデル」を提案しています。


神戸市という健康経営に積極的な企業・医療機関・行政が集積する地域を舞台に、実証と展開を進めていく構想です。



5-1. なぜ神戸なのか──健康産業都市と企業集積の地


神戸市は「健康創造都市」を掲げ、1998年から医療・健康産業の集積を進めてきました。


理化学研究所や大学、先端医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院などが集まる「神戸医療産業都市(KBIC)」は、日本最大級の規模を誇ります。


この都市には、アシックスや日本イーライリリーといった健康経営に積極的な企業が本社・拠点を構えており、健康×産業のフィールドとしては日本でも類を見ない環境が整っています。


また、神戸は港町としての歴史から、異文化や新しい価値を柔軟に受け入れる風土があります。

企業や自治体、医療機関が協働する新しい取り組みも受け入れられやすく、企業歯科健診のような新分野の実証には理想的な土壌といえます。



5-2. 神戸モデルのコンセプト──4つの要素を循環させる


神戸モデルでは、予防歯科を一過性のイベントではなく、データとテクノロジーを活用しながら循環させる「仕組み」として構築します。


その中核となるのが以下の4つの要素です👇


  1. 普及啓発(教育・意識変容) 

    まず、企業内で歯科衛生士や専門家がセミナー・ワークショップを実施し、社員の意識を変える。受診率を上げるためには「制度」だけでなく「認識の変化」が不可欠です。


  2. 企業歯科健診(職域でのアクセス整備) 

    企業施設内や近隣医療機関での健診を行い、会社員が受診しやすい環境を整える。医科健診と同時に行うことで、心理的・時間的ハードルを大きく下げます。


  3. セルフケア・ホームケア支援(継続的な行動変容) 

    健診で得た情報をもとに、歯科衛生士がセルフケア指導やケア用品の提供を行い、リモートでのフォローアップも組み合わせて、社員一人ひとりの行動変容を促します。


  4. 歯科医院・医療・介護との連携(治療・重症化予防)

  健診結果に応じて、必要な人には地域の歯科医院で治療や専門ケアを受けられる体制を

  構築します。将来的には医科との情報連携も視野に入れ、全身疾患予防にも寄与します。



5-3. 包括的アプローチ──現場に無理なく定着させる


このモデルがしっかり実装されるには、社員に対して包括的にアプローチすることが重要です。


以下は、神戸モデルのフェーズ別アプローチのイメージです👇

フェーズ

内容

目的・成果

導入初期

歯科衛生士による普及啓発・セミナー実施

社員の認識変容・受診意欲の喚起

初期

企業歯科健診の試行実施(出張型・施設内)

健診実施体制の構築・受診率向上

中期

セルフケア支援・ケア用品販売・リモート支援

健診後の継続支援と行動変容

後期

歯科医院・医療機関との連携体制構築

治療・重症化予防・医科連携の強化

このようにフェーズ別のアプローチを実施することで「やったつもり」の歯科健診を防ぐことができます。


特に初期段階では、歯科衛生士の役割が極めて重要で、院内だけでなく企業現場に出向いて活動する「新しい働き方」が求められます。



5-4. データとテクノロジーで「見える化」する


神戸モデルでは、健診・セルフケア・治療の各段階で得られるデータを蓄積し、従業員・企業・医療機関の3者で共有・活用できる仕組みを整えることも重要な要素としています。


  • 健診結果やセルフケア実施状況を個人・企業・医療が適切に把握

  • 全身疾患リスクや医療費との関連性をデータで「見える化」

  • AIやPHR(Personal Health Record)との連携により、将来的には予防行動の最適化へ

こうしたデータ活用によって、企業は自社の健康投資の成果を可視化でき、従業員は自分の健康状態を把握・改善しやすくなります。


また、医療機関との連携もスムーズになり、個人情報の適切な管理のもとで医科歯科連携の実装が進んでいきます。



5-5. 神戸モデルの可能性──地域から全国へ


この神戸モデルは、単に一企業の取り組みにとどまらず、地域全体で予防歯科と健康経営を推進するプラットフォームとして機能する可能性を持っています。


神戸という都市で成功事例をつくり、それを他地域へ展開していくことで、日本全体に「社員皆歯科健診」の文化を根付かせることができます。


厚労省のモデル事業地域でもある神戸市で先行的に実証を行うことは、国の政策とも合致しており、制度面・社会面の双方から追い風を受けながら展開できます。


企業・自治体・医療・歯科衛生士が連携することで、これまでバラバラだった「予防歯科の要素」を一つの循環型モデルとして統合し、日本型の包括的予防歯科モデルを世界に先駆けて発信していく──それが神戸モデルの目指す姿です。



第6章 まとめ──「いわゆる社員皆歯科健診」で、企業の未来を先取りする


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ここまで、社会的背景、政策の動き、企業にとってのメリット、そして神戸モデルという具体的な構想を見てきました。


改めて、企業が「社員皆歯科健診」に踏み出す意義を整理してみましょう。



6-1. 厚労省×経産省×自治体──政策の“3層構造”が企業を後押しする


かつて、企業における歯科健診は「関心がある一部の企業だけが任意で行う」ものでした。


しかし今は、状況が根本的に変わりつつあります。


  • 厚生労働省は「国民皆歯科健診」という国家方針を掲げ、職域への歯科健診導入を進めています(厚労省 国民皆歯科健診)。

  • 経済産業省は「健康経営」の中で口腔保健を評価軸に含める可能性があります(経産省 健康経営推進)。

  • 自治体レベルでは兵庫県のように、企業の歯科健診導入を後押しする補助制度が始まっています。


これらはバラバラの施策ではなく、一方向に向かって重なり合う政策の3層構造です。


つまり、制度面での“追い風”はすでに吹き始めており、企業はこの流れを活用することで、低コストかつ戦略的に「社員皆歯科健診」を導入することができます。



6-2. 医療費削減・生産性向上・採用力強化──企業の戦略テーマと直結


歯科健診は、単なる「健康施策」ではありません。


医療費削減、生産性向上、採用力強化という、企業経営の中核にある3つのテーマと直結しています👇


  1. 医療費削減 

    歯周病と全身疾患の関連を踏まえると、予防・早期対応による医療費削減効果は非常に大きな可能性を秘めています。


  2. 生産性向上  

    口腔の健康は、集中力・栄養・睡眠と密接に関わり、プレゼンティーズムの改善にも寄与します。


  3. 採用力・企業ブランド強化 

    マイナビ調査では、約40〜50%の学生が福利厚生を企業選びの重要ポイントとしています(マイナビ 2025年卒調査)。 

     社員皆歯科健診を戦略的に導入することは、健康経営と福利厚生を掛け合わせた新しい採用・定着戦略になり得ます。


つまり、社員皆歯科健診は「制度対応」ではなく、経営上の攻めの一手です。



6-3. 義務化を“待つ”か、“先取りする”か──企業の姿勢が問われる


今後、厚労省の方針に基づき、企業健診への歯科項目の追加や、経産省の認定制度への組み込みが進めば、企業にとって「やるか・やらないか」の選択ではなく、「どう取り組むか」が問われる時代になります。


制度が完全に整ってから動くのではなく、今この段階で先行的に取り組むことで、


  • 補助制度や助成金を活用しやすい

  • 自社に合った形で導入できる

  • 社内・地域との連携を先に構築できる といったメリットを享受できます。


逆に、後手に回れば、制度変更に合わせて急な対応を迫られ、コストや運用負担が増える可能性もあります。


つまり、先に動く企業ほど、政策と市場の両方で優位に立てるということです。



6-4. 神戸モデルから始まる「日本型予防歯科」の未来


神戸モデルは、健診だけでなく、普及啓発・セルフケア支援・医療連携・データ活用までを含めた、日本型の包括的な予防歯科モデルです。


これは一企業の取り組みにとどまらず、地域全体で健康経営と予防歯科を連動させる新しい仕組みです。


神戸という都市を起点に成功モデルをつくり、それを全国に広げていくことで、

「国民皆歯科健診」の理念を、企業と地域が主体となって実現していく未来が見えてきます。



6-5. 未来を変える一歩を、企業から


最後に、この記事を読んでいる企業の広報担当・健康管理担当、中小企業の経営者の皆さまにお伝えしたいことがあります。


「社員皆歯科健診」は、政府が“やるべきだ”と掲げ、経済界が“評価すべきだ”と認め、社会が“必要としている”取り組みです。


これを“いつかやる”ではなく、“今やる”ことで、御社の健康経営は一歩先に進みます。


企業が先に動けば、社員の健康が守られるだけでなく、医療費・生産性・採用力といった経営の根幹が強化され、結果的に企業価値そのものが高まります。


この変化は、歯科業界や行政だけでは起こせません。企業が主体的に一歩を踏み出すことこそが、社会全体を変える力になるのです。



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